しようぢやありませんか。」
少女は、青年より以上に強かつた。其処には火花が漏れるやうな堅さがあつた。それ丈、勝平に対する侮辱も、甚だしかつた。こんな男と言葉を交へるのさへ、馬鹿々々しいと、云つた表情が、彼女の何処かに漂つてゐた。孔雀のやうに美しい彼女は、孔雀のやうな態度を持つてゐるのだつた。
青年も、自分の態度を、余り大人気ないと思ひ返したのだらう。女の言葉を、戈を収める機会にした。
「いや、飛んだ失礼を申上げました。」
さう云ひ捨てたまゝ、青年は女と並んで足早に丘を下つて行つた。敵に、素早く身を躱《かは》されたやうに、勝平は心の憤怒を、少しも晴さない中に、やみ/\と物別れになつたのが、口惜しかつた。もつと、何とか云へばよかつた、もつと、青年を恥しめてやればよかつたと、口惜しがつた。睦《むつま》じさうに並んで、遠ざかつて行く二人を見てゐると、勝平は自分の敗れたことが、マザ/\と判つて来た。青年の罵倒に口惜しがつて、思はず飛び出したところを、手もなく扱はれて、うまく肩透しを喰つたのだつた。どんな点から、考へて見ても、自分にいゝ所はなかつた。敗戦だつた。醜い敗戦だつた。さう思ふと、わ
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