得たり、又得た金の力を他人に、見せびらかさうとするやうな人は嫌ひです。」
もう、其処に何等の儀礼もなかつた。それは、言葉で行はれてゐる格闘だつた。青年の顔も蒼ざめてゐた。勝平の顔も蒼ざめてゐた。
「いや、何とでも仰しやるがよい。が、理窟ぢやありません。世の中のことは、お坊ちやんの理想|通《どほり》に行くものではありません。貴君にも金の力がどんなに恐ろしいかが、お判りになるときが来ますよ。いや、屹度《きつと》来ますよ。」
勝平は、その大きい口を、きつと結びながら青年を睨みすゑた。が、青年の直ぐ傍に、立ち竦んだまゝ、黙つてゐる彫像のやうな姿に目を転じたとき、勝平の心は、再びタヂ/\となつた。その美しい顔は勝平に対する憎悪に燃えてゐたからである。
七
青年が、何かを答へようとしたとき、女は突如《いきなり》彼を遮ぎつた。
「もういゝぢやございませんか。私達が、参つたのがいけなかつたのでございますもの。御主人には御主人の主義があり貴君《あなた》には貴君の主義があるのですもの。その孰れが正しいかは、銘々一生を通じて試して見る外はありませんわ。さあ、失礼をしてお暇《いとま》
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