子を、不思議さうにジロ/\と見てゐた。
「先刻、皆様に御挨拶した筈ですが、貴方《あなた》方は遅くいらしつたと見えて、まだ御挨拶をしなかつたやうです。私が、此家の主人の荘田勝平です。」
 さう云ひながら、勝平はわざと丁寧に、頭を下げた。が、両方の手は、激怒のために、ブル/\と顫へてゐた。
 遉《さすが》に、青年の顔も、彼に寄り添うてゐる少女の顔もサツと変つた。が、二人とも少しも悪怯《わるび》れたところはなかつた。
「あゝさうですか。いや、今日はお招きに与《あづか》つて有難うございます。僕は、御存じの杉野|直《たゞし》の息子です。茲《こゝ》に、いらつしやるのは、唐澤男爵のお嬢さんです。」
 青年の顔色は、青白くなつてゐたが、少しも狼狽した容子は見せなかつた。昂然とした立派な態度だつた。青年に紹介されて、しとやかに頭を下げた令嬢の容子にも、微塵|狼狽《うろた》へた様子はなかつた。
「いや、先刻から貴君の御議論を拝聴してゐました。いろ/\我々には、参考になりました。ハヽヽ。」
 勝平は、高飛車に自分の優越を示すために、哄笑しようとした。が、彼の笑ひ声は、咽喉にからんだまゝ、調子外れの叫び声にな
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