言つたやうな、おせつかいなことを言つたものですから、妾《わたし》はつい反抗的に、意地であの方を箱根へ連れて来たくなつたのです。外《よそ》ながら、そのおせつかいな人に思ひ知らせて、やりたくなつたのです。美奈子さん、それが妾《わたし》の性分なのです。今までの妾《わたし》の生活、貴女のお家へ来たことなども、みんな妾《わたし》のさう云つた性分が、妾《わたし》を動かしたのです。」
 母は何時になく、しんみりとした沈んだ調子になつてゐた。短い沈黙の後で、母は再び口を開いた。
「それは、自分でも何うともすることが出来ない性分です。誰かから抑へられると、その二倍も三倍もの烈しさで、跳《はね》返したいやうな気になるのです。それが、妾《わたし》の性格の致命的《フェータル》な欠陥かも知れません。妾《わたし》は自分のさうした性分のために、自分の一生を犠牲にしたのではないかとさへ、此頃考へてゐるのです。」
 母は、かう言つて悵然《ちやうぜん》[#ルビの「ちやうぜん」は底本では「ちやうだん」]としたが、また直ぐ言葉を続けた。
「子供が、触つてはいけないと言はれた草花に、却つて触りたくなるやうな心持で、青木さんを、わざと箱根へ連れて来たのです。あの人に何の興味があつたと云ふ訳でもないのです、おせつかいなことを言つた人に対する意地で、ついそんなことをしてしまつたのです。それから、恐ろしい罰を受けようとは夢にも知らなかつたのです。」
 母の言葉は、沈み切つてゐた。強い悔《くい》が、彼女の心を苛んでゐることを示してゐた。
「妾《わたし》の想像が違つたら、御免下さい。貴女の清浄《しやうじやう》な純な心に映つた男性を妾《わたし》が奪ふと云ふ恐ろしいことをしてゐたのです。美奈さん! 許して下さい。美奈さん。」
 涙などは、今まで一度も流したことのない母の声が、湿《うる》んでゐた。
「貴女に対して、何とお詑びしていゝか分らないのです。貴女の心に萌んだ美しい想《おもひ》の芽を妾《わたし》が蹂躙してゐようとは、妾《わたし》が! 貴女を何物よりも愛してゐる妾《わたし》が。」
 瑠璃子の眼に、始めて涙が光つた。
「取り返しの付かない、恐ろしいことです。妾《わたし》が、たゞホンの悪戯《いたづら》のために、ホンの意地の為めに、宝石にも換へがたい貴女の純な感情を蹂み躙つてゐようとは、思ひ出す丈《だけ》でも、妾《わたし》の心
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