ゐるつもりです。僕の貴女に対する恋、それは、僕に取つては初恋です。大切な懸命な初恋でした、凡てを犠牲にしてもいゝと思つた初恋です。が、それが……」
青年は、茲《こゝ》まで云ふと、自分自身で、こみ上げて来る口惜しさに堪へ切れなくなつたやうに、ハラ/\と涙を落した。
「……それが貴女のために、ムザ/\と蹂み躙られてしまつたのだ。覚えていらつしやい! 奥さん。」
彼は、自分の感情を抑へ切れなくなつたやうに、かう叫んだ。
立つてゐる華奢な長身が、いたましくわなわな[#「わなわな」に傍点]と顫へて、男泣きの涙が、幾条《いくすぢ》となく地に落ちた。先刻《さつき》から美奈子は、青年の容子を見てゐるのに、堪へないやうに、目を伏せてゐたが何と思つたのか此時ふと顔を上げた。
「お母様!」
彼女はかすれたやうな声で、初めて口を開いた。
六
「お母様!」
さう叫んだ美奈子の言葉には、思ひ切つた処女の真剣さが、籠つてゐた。
「お母様、あのう、もう一度、どうぞもう一度、ゆつくりお考へ下さいませ。青木さんが何《ど》う仰しやつたのか知りませんが、もう一度考へ直して下さいませ。妾《わたくし》、妾……」
美奈子は、もつと何か云ひたさうだつたが、烈しい興奮のために、胸が迫つたのだらう、そのまゝ口籠つてしまつた。
去りかけようとした青年は、美奈子の言葉を聴くと、一寸ためらひながら、美奈子の方を振り返つた。
「美奈子さん。貴女の御厚意は、大変有難うございます。が、もう凡ては終つたのです。僕の心は、蹂み躙られたのです。僕の心には、今悲みと怨みとがあるばかりです。さやうなら、貴女には、いろ/\失礼しました。」
さう云ひ捨てると、青年は弾かれたやうに、身体を飜すと、緩い勾配の芝生の道を、一気に二十間ばかり、馳け降りると、その白い浴衣《ゆかた》を着た長身で、公園の闇を切る姿を見せてゐたが、直ぐ樹立の蔭に見えずなつた。
美奈子は、淋しみとも悲しみとも、あきらめ[#「あきらめ」に傍点]とも付かぬ心で、消えて行く青年の姿を追うてゐた。
瑠璃子も、一寸青年の後姿を見てゐたやうだつたが、直ぐ思ひ返したやうに立ち上ると、美奈子の傍に寄つて来て、すれ/\に腰をかけた。
「美奈子さん! 駭いて?」
軽く左の手を、美奈子の肩にかけながら、優しく訊いた。
「はい。青木さんが、お気の毒でございま
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