後に続いて走ったが、俊寛はまたかと思いながら、無言のまま、跡からついて行った。成経と康頼とは砂浜を根よく走りつづけた。俊寛も、彼らの熱心な走り方を見ると、自分の足並みが、いつの間にか、急ぎ足になるのをどうともすることができなかった。
 そのうちに、疑い深い俊寛の瞳にも、遥かかなたの水平線に、波に浮んでいる白千鳥のように、白い帆をいっぱいに張りながら、折柄の微風に、動くともなく近づいて来る船の姿が映らずにはいなかった。
 俊寛も、狂気のように走り出した。三人は半町ばかり隔りながら、懸命に走った。お互いに立ち止って待ち合せる余裕などはなかった。走るに従って、白帆もだんだん近づいて来るのだった。それは、九州から硫黄を買いに来る船のような小さい船ではなかった。
 成経は、感激のために泣きながら走っている。康頼もそうだった。俊寛も、胸が熱くるしくなって、目頭《めがしら》が妙にむずがゆくなってくるのを感じた。見ると、船の舳《へさき》には、一流の赤旗がへんぽん[#「へんぽん」に傍点]と翻《ひるがえ》っている。平家の兵船だと思うと、その船に赦免《しゃめん》の使者が乗っていることが三人にすぐ感ぜられた。
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