もの癖であるように、妻の松の前や、娘の鶴の前の姿がまばろしのように、胸の中に浮んでくる。それから、京極の宿所の釣殿《つりどの》や、鹿ヶ谷の山荘の泉石《せんせき》のたたずまいなどが、髣髴《ほうふつ》として思い出される。都会生活に対するあこがれが心を爛《ただ》らせる。たくさん使っていた下僕《しもべ》の一人でもが、今|侍《かしず》いていてくれればなどと思う。
俊寛が、こうした回想に耽《ふけ》っているとき、寝入っていたと思った成経が急に立ち上った。彼は、悲鳴とも歓声ともつかない声を出したかと思うと、砂丘を海の方へ一散に駆け降りた。
彼は、波打|際《ぎわ》に立つと、躍るように両手を打ち振った。
「判官どの。白帆にて候ぞ。白帆にて候ぞ」
そういって、康頼に知らせると、また悲鳴のような声をあげながら、浜辺を北へ北へと走った。
康頼も、あわただしい声にすぐ起き上った。俊寛も、白帆だときくと、すぐ立ち上らずにはいられなかったが、白帆が見えるといって成経が浜辺を走ったことは、これまでに二、三度あった。彼はよく白雲の影を白帆と間違えたり、波間に浮ぶ白鳥から、白帆の幻影を見た。
康頼は、さすがにすぐ
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