なく成経と康頼との所へ帰ってくる。そして再び、不快な感情のうちに、心を傷つけながら生活していく。
今朝も、鹿《しし》ヶ|谷《たに》の会合の発頭人は誰だということで、俊寛は成経とかなり激しい口論をした。成経は、真の発頭人は西光だといった。だから、西光だけは、平相国《へいそうこく》がすぐ斬ったではないかといった。俊寛は、いな御身《おんみ》の父の成親《なりちか》卿こそ、真の発頭人である。清盛が、御身の父を都で失わなかったのは、藤氏《とうし》一門の考えようを、憚《はばか》ったからである。その証拠には、備前へ流されるとすぐ人知れず殺されたではないかといった。父のことを、悪しざまにいわれたので、日頃は言葉すくない成経も、烈火のように激して、俊寛と一刻近くも激しく言い争った。二人が、口論に疲れて、傷つけられた胸を懐きながら、黙ってしまうまで。
成経と康頼とが、横になっているいぎたない[#「いぎたない」に傍点]様子を見ていると、俊寛は意地にもその真似をする気にはなれなかった。彼は、胸のうちの寂しさとむしゃくしゃした鬱懐《うっかい》とをもらすところのないままに、腕組をして、じっと考える。すると、いつ
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