て、鬼界ヶ島へ下ったのである。
 島へ上陸した有王は、三日の間、島中を探し回った。が、それらしい人には絶えて会わなかった。島人には、言葉不通のため、ききあわすべき、よすがもなかった。そのうちに、便乗してきた商人船の出帆の日が迫った。今は俊寛が生活した旧跡でも見たいと思って、人の住む所と否とを問わず、島中を縫うように駆け回った。
 四日目の夕暮、有王は人里遠く離れた海岸で、人声を聞いた。それが思いがけなくも大和言葉であった。有王は、林の中を潜って、人声のする方へ行った。見ると、そこは、ひろびろと拓かれた畑で、二人の男女の土人が、並んで耕しているのであった。しかも、彼らは大和言葉で、高々と打ち語っているのであった。有王は、おどろきのあまりに、畑のそばに立ち竦《すく》んでしまった。有王の姿を見たその男は、すぐその鍬を捨ててつかつかとそばへ寄って来た。
 その男は、じっと有王の姿を見た。有王も、じっとその姿を見た。その男の眉の上のほくろを見出すと、有王は、
「俊寛|僧都《そうず》どのには、ましまさずや」
 そう叫ぶと、飛鳥のように俊寛の手元に飛び縋《すが》った。
 その男は、大きく頷いた。そし
前へ 次へ
全40ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング