女も元の場所へ帰って蹲る。そして、時々思い出したように歌いつづける。
その翌日も、俊寛は同じ場所に行った。その翌々日も、俊寛は同じ場所へ行った。もう鰤を釣る目的ではなかった。
幾日も幾日も、そうした情景が続いた後、少女はとうとうその牝鹿《めじか》のようにしなやかな身体を、俊寛の強い双腕《もろうで》に委してしまった。
俊寛は、もう孤独ではなかった。かの少女は、間もなく俊寛のために、従順な愛すべき妻となった。むろん、土人たちは彼らの少女を拉《らっ》したのを知ると、大挙して俊寛の小屋を襲って来た。二十人を越す大勢に対して、すこしも怯《ひる》むところなく、鉞《まさかり》をもって立ち向った俊寛の勇ましい姿は、少女の俊寛に対する愛情を増すのに、十分であった。が、恐ろしい惨劇《さんげき》が始まろうとする刹那、少女はいちはやく土人の頭《らしい》らしい老人の前に身を投じた。それは、少女の父であるらしかった。老人は、少女から何事かをきくと、怒り罵《ののし》る若者たちを制して、こともなく引き上げて行った。
その事件があった後は、俊寛の家庭には、幸福と平和のほかは、何物も襲って来なかった。
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