肩に食い入るように重い。が、自分が獲ったのであると思うと、一匹だって、捨てる気はしない。小屋へ帰ってから、彼は小太刀で腹を割《さ》き、腸《わた》を去ってから、それを日向《ひなた》へ乾す。半月ばかり鰻を取っているうちに、小屋の周囲は乾した鰻でいっぱいになる。そのうちに、鰻の取れる季節は、過ぎ去ってしまう。そして、冬が来た。冬の間、俊寛は畑を作ることに、一生懸命になった。彼は、まず畑のために選定した彼の広闊《こうかつ》な土地へ、火を放った。そして、雑草や灌木《かんぼく》を焼き払った。それから、焼き残った木の根を掘返し、岩や小石を取去った。彼の鉞は、今度は鍬《くわ》の用をした。道具がないために、彼の仕事は捗《はかど》らなかった。土人の所に行けば、鍬に似たものがあるのを知っていた。が、報酬なしに土人が何物をも貸さないことを知っていた。が、彼の精根は、そうしたものに、すべて打ち克《か》った。冬の終る頃には、一町近い畑が、彼の力に依って拓《ひら》かれた。彼に今最も必要なことは、そこに蒔《ま》かねばならない麦の種であった。彼は、麦の種を土人が手放さないのを知っていた。彼は、それと交易《こうえき》する
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