》、唐鳩《からばと》、赤髭《あかひげ》、青鷺《あおさぎ》などは、俊寛の近づくのをすこしも恐れなかった。半日、山や海岸を駆け回ると、運び切れないほどの獲物があった。
今までの彼は、狩はともかく、漁《すなど》りはむげ[#「むげ」に傍点]に卑しいことだと思っていた。ひたすらに都会生活に憧れていた彼は、そうしたことを真似てみようという気は起らなかった。が、現在の彼は、土人に習って漁りをしてみようと考えた。その頃の島は、鰻《うなぎ》を取る季節であった。永良部鰻《えらぶうなぎ》は、秋から冬にかけて島の海岸の暖かい海水を慕って来て、そこへ卵を産むのであった。土人は、海水の中に身を浸してそれを手捕りにした。俊寛も、それに習った。最初は、いくど掴《つか》んでも掴み損ねた。土人は、あやしい言葉で何かいいながら、俊寛をわらった。が、俊寛は屈しなかった。三日ばかりも、根よく続けて試みているうちに、魯鈍《ろどん》で、いちばん不幸な鰻が、俊寛の手にかかる。五日と経ち、七日と経つうちに、どんな敏捷な鰻でも俊寛の手から逃れることができなくなってくる。彼は、何十匹と獲《え》た鰻のあごに蔓を通し、それを肩に担ぐ。蔓が、
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