のかなたに落ち、唐竹の林に風が騒ぎ、名も知れない海鳥が鳴くときなど、灯もない小屋の中に蹲《うずくま》っている俊寛に、身を裂くような寂しさが襲ってくる。が、昼間の激しい労働が産む疲労は、すぐ彼をそうした寂しさから救ってくれ、そして彼に安らかな眠りを与えてくれる。
新しい小屋ができたとき、彼はその次には、食物のことを考えた。三人で食い残した乾飯《ほしい》は、まだ二月、三月は、俊寛一人を支えることができた。が、成経がいなくなった今は、成経の舅から仕送りがあるはずはなかった。今は、自分で食物を耕し作るよりほかはなかった。俊寛は、新しい小屋から、二町ばかり隔った所に、やや開けた土地があり、硫黄ヶ岳に遠いために硫黄の気がすこしもないことを知った。
彼は、そこを冬の間に開墾し、春が来れば麦を植えようと思った。が、差し当っては、漁《すなど》りと狩をするほかに、食料を得る道はなかった。
彼は、堅牢《けんろう》な唐竹を伐って、それに蔓《つる》を張って弓にした。矢は、細身の唐竹を用い、矢尻は鋭い魚骨を用いた。本土ならば、こうした矢先にかかる鳥は一羽もいなかっただろうが、この島に住んでいる里鳩《さとばと
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