ぎょうかく》な山になっているらしく、小川とか泉とかが、ありそうに思えなかった。それでも、激しい渇きは、彼を一刻もじっとしていさせなかった。彼は、寝ていた岩から、身を剥《は》がすようにして立ち上った。立ち上るとき、身体のもろもろの関節が、音を立てて軋《きし》るように思った。彼は、それでも這《は》うようにして、岸壁を降りることができた。彼は昼間(それは昨日であるのか一昨日であるのか分からなかったが)夢中で走った道を、二町ばかり引返した。彼は、昼間そこを走ったとき、榕樹《ようじゅ》が五、六本生えていて、その根に危く躓《つまず》きそうになったのを覚えていた。彼の濁ってしまっている頭の中でも、榕樹の周囲を探せば水があるかも知れないという考えが、ぼんやり浮んでいた。
 が、榕樹の生えている周囲を、海の水あかりで、二、三度探して回ってみたけれども、そこらは一面に唐竹《からたけ》が密生しているだけで、水らしいものは、すこしも見当らない。俊寛は、その捜索に残っていた精力を使いつくして、崩れるように地上へ横たわると、再び昏々として眠りはじめた。
 二度目に目が覚めたとき、それは朝だった。疲れ萎《しな》びて
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