んなにあの図書館の世話になったことだろう。最初入学した専門学校を退学されて、行きどころもなくぶらぶらと半年ばかりの月日を過さなければならなかった時には、どんなにあの建物のありがたさが分かっただろう。
 高等学校へ入ってからも、幾度通ったかもわからない。まだ、そればかりではない、つい二年前、大学を出てから職業にありつくまでの半年間を、彼はやっぱり図書館で暮していたのだ。その時代の図書館通いは、彼にとってはいちばんみじめなことであった。
 大学を出ても、まだ他人の家の厄介になっていて、何らの職業も、見つからないのに、彼の故郷からは、もう早くから、金を送るようにいってきていた。大学を出さえすれば、すぐにも金が取れるように彼の父や母は思っていた。またそう思わずには、おられなかったのだろう。「譲吉が学校を出るまで」という言葉を、彼らは窮乏から来る苦しみを逃れる、唯一のまじないのように思っていたのだから。譲吉は、自分が就職難に苦しんでいる最中に、早くも金を送れといってくる母の無理解さに、いらいらしながら、自分が学問をしたそのために、家に負わした経済的な致命傷のことを思うと、そうした性急な催促も、も
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