家鴨《あひる》にとっちゃあ大《たい》した名誉《めいよ》なんだよ。つまりあの方《かた》を見失《みうし》わない様《よう》にしてみんなが気《き》を配《くば》ってる証拠《しょうこ》なの。さあさ、そんなに趾《あしゆび》を内側《うちがわ》に曲《ま》げないで。育《そだ》ちのいい家鴨《あひる》の子《こ》はそのお父《とう》さんやお母《かあ》さんみたいに、ほら、こう足《あし》を広《ひろ》くはなしてひろげるもんなのだ。さ、頸《くび》を曲《ま》げて、グワッって言《い》って御覧《ごらん》。」
 家鴨《あひる》の子達《こたち》は言《い》われた通《とお》りにしました。けれどもほかの家鴨達《あひるたち》は、じろっとそっちを見《み》て、こう言《い》うのでした。
「ふん、また一孵《ひとかえ》り、他《ほか》の組《くみ》がやって来《き》たよ、まるで私達《わたしたち》じゃまだ足《た》りないか何《なん》ぞの様《よう》にさ! それにまあ、あの中《なか》の一|羽《わ》は何《なん》て妙《みょう》ちきりんな顔《かお》をしてるんだろう。あんなのここに入れてやるもんか。」
 そう言《い》ったと思《おも》うと、突然《とつぜん》一|羽《わ》跳《
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