と、お婆《ばあ》さんは部屋中《へやじゅう》見廻《みまわ》して言《い》いましたが、目《め》がぼんやりしているものですから、子家鴨《こあひる》に気《き》がついた時《とき》、それを、どこかの家《うち》から迷《まよ》って来《き》た、よくふとった家鴨《あひる》だと思《おも》ってしまいました。
「いいものが来《き》たぞ。」
と、お婆《ばあ》さんは云《い》いました。
「牡家鴨《おあひる》でさえなけりゃいいんだがねえ、そうすりゃ家鴨《あひる》の卵《たまご》が手《て》に入《はい》るというもんだ。まあ様子《ようす》を見《み》ててやろう。」
そこで子家鴨《こあひる》は試《ため》しに三|週間《しゅうかん》ばかりそこに住《す》む事《こと》を許《ゆる》されましたが、卵《たまご》なんか一《ひと》つだって、生《うま》れる訳《わけ》はありませんでした。
この家《うち》では猫《ねこ》が主人《しゅじん》の様《よう》にふるまい、牝鶏《めんどり》が主人《しゅじん》の様《よう》に威張《いば》っています。そして何《なに》かというと
「我々《われわれ》この世界《せかい》。」
と、言《い》うのでした。それは自分達《じぶんたち》が世
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