おんな》と、一|匹《ぴき》の牡猫《おねこ》と、一|羽《わ》の牝鶏《めんどり》とが住《す》んでいるのでした。猫《ねこ》はこの女御主人《おんなごしゅじん》から、
「忰《せがれ》や。」
と、呼《よ》ばれ、大《だい》の御《ご》ひいき者《もの》でした。それは背中《せなか》をぐいと高《たか》くしたり、喉《のど》をごろごろ鳴《な》らしたり逆《ぎゃく》に撫《な》でられると毛《け》から火《ひ》の子《こ》を出《だ》す事《こと》まで出来《でき》ました。牝鶏《めんどり》はというと、足《あし》がばかに短《みじか》いので
「ちんちくりん。」
と、いう綽名《あだな》を貰《もら》っていましたが、いい卵《たまご》を生《う》むので、これも女御主人《おんなごしゅじん》から娘《むすめ》の様《よう》に可愛《かわい》がられているのでした。
 さて朝《あさ》になって、ゆうべ入《はい》って来《き》た妙《みょう》な訪問者《ほうもんしゃ》はすぐ猫達《ねこたち》に見《み》つけられてしまいました。猫《ねこ》はごろごろ喉《のど》を鳴《な》らし、牝鶏《めんどり》はクックッ鳴《な》きたてはじめました。
「何《なん》だねえ、その騒《さわ》ぎは。」

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