いるのに卵《たまご》はいっこう殻《から》の破《やぶ》れる気配《けはい》もありませんし、訪《たず》ねてくれる仲間《なかま》もあまりないので、この家鴨《あひる》は、そろそろ退屈《たいくつ》しかけて来《き》ました。他《ほか》の家鴨達《あひるたち》は、こんな、足《あし》の滑《すべ》りそうな土堤《どて》を上《のぼ》って、牛蒡《ごぼう》の葉《は》の下《した》に坐《すわ》って、この親家鴨《おやあひる》とお喋《しゃべ》りするより、川《かわ》で泳《およ》ぎ廻《まわ》る方《ほう》がよっぽど面白《おもしろ》いのです。
 しかし、とうとうやっと一《ひと》つ、殻《から》が裂《さ》け、それから続《つづ》いて、他《ほか》のも割《わ》れてきて、めいめいの卵《たまご》から、一|羽《わ》ずつ生《い》き物《もの》が出《で》て来《き》ました。そして小《ちい》さな頭《あたま》をあげて、
「ピーピー。」
と、鳴《な》くのでした。
「グワッ、グワッってお言《い》い。」
と、母親《ははおや》が教《おし》えました。するとみんな一生懸命《いっしょうけんめい》、グワッ、グワッと真似《まね》をして、それから、あたりの青《あお》い大《おお》き
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