ました。
「やれやれ。」
と、子家鴨《こあひる》は吐息《といき》をついて、
「僕《ぼく》は見《み》っともなくて全《まった》く有難《ありがた》い事《こと》だった。犬《いぬ》さえ噛《か》みつかないんだからねえ。」
と、思《おも》いました。そしてまだじっとしていますと、猟《りょう》はなおもその頭《あたま》の上《うえ》ではげしく続《つづ》いて、銃《じゅう》の音《おと》が水草《みずくさ》を通《とお》して響《ひび》きわたるのでした。あたりがすっかり静《しず》まりきったのは、もうその日《ひ》もだいぶん晩《おそ》くなってからでしたが、そうなってもまだ哀《あわ》れな子家鴨《こあひる》は動《うご》こうとしませんでした。何時間《なんじかん》かじっと坐《すわ》って様子《ようす》を見《み》ていましたが、それからあたりを丁寧《ていねい》にもう一|遍《ぺん》見廻《みまわ》した後《のち》やっと立《た》ち上《あが》って、今度《こんど》は非常《ひじょう》な速《はや》さで逃《に》げ出《だ》しました。畑《はたけ》を越《こ》え、牧場《ぼくじょう》を越《こ》えて走《はし》って行《い》くうち、あたりは暴風雨《あらし》になって来《き
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