くち》の上《うえ》に来《き》ました。見《み》るとたくさんの野鴨《のがも》が住《す》んでいます。子家鴨《こあひる》は疲《つか》れと悲《かな》しみになやまされながらここで一晩《ひとばん》を明《あか》しました。
朝《あさ》になって野鴨達《のがもたち》は起《お》きてみますと、見知《みし》らない者《もの》が来《き》ているので目《め》をみはりました。
「一体《いったい》君《きみ》はどういう種類《しゅるい》の鴨《かも》なのかね。」
そう言《い》って子家鴨《こあひる》の周《まわ》りに集《あつ》まって来《き》ました。子家鴨《こあひる》はみんなに頭《あたま》を下《さ》げ、出来《でき》るだけ恭《うやうや》しい様子《ようす》をしてみせましたが、そう訊《たず》ねられた事《こと》に対《たい》しては返答《へんとう》が出来《でき》ませんでした。野鴨達《のがもたち》は[#「野鴨達は」は底本では「野鴨達に」]彼《かれ》に向《むか》って、
「君《きみ》はずいぶんみっともない顔《かお》をしてるんだねえ。」
と、云《い》い、
「だがね、君《きみ》が僕達《ぼくたち》の仲間《なかま》をお嫁《よめ》にくれって言《い》いさえしなけりゃ、まあ君《きみ》の顔《かお》つきくらいどんなだって、こっちは構《かま》わないよ。」
と、つけ足《た》しました。
可哀《かわい》そうに! この子家鴨《こあひる》がどうしてお嫁《よめ》さんを貰《もら》う事《こと》など考《かんが》えていたでしょう。彼《かれ》はただ、蒲《がま》の中《なか》に寝《ね》て、沢地《たくち》の水《みず》を飲《の》むのを許《ゆる》されればたくさんだったのです。こうして二日《ふつか》ばかりこの沢地《たくち》で暮《くら》していますと、そこに二|羽《わ》の雁《がん》がやって来《き》ました。それはまだ卵《たまご》から出《で》て幾《いく》らも日《ひ》の経《た》たない子雁《こがん》で、大《たい》そうこましゃくれ者《もの》でしたが、その一方《いっぽう》が子家鴨《こあひる》に向《むか》って言《い》うのに、
「君《きみ》、ちょっと聴《き》き給《たま》え。君《きみ》はずいぶん見《み》っともないね。だから僕達《ぼくたち》は君《きみ》が気《き》に入《い》っちまったよ。君《きみ》も僕達《ぼくたち》と一緒《いっしょ》に渡《わた》り鳥《どり》にならないかい。ここからそう遠《とお》くない処《とこ
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