う》は立派《りっぱ》だよ。」
と、例《れい》の身分《みぶん》のいい家鴨《あひる》はもう一|度《ど》繰返《くりかえ》して、
「まずまず、お前《まえ》さん方《がた》もっとからだをらくになさい。そしてね、鰻《うなぎ》の頭《あたま》を見《み》つけたら、私《わたし》のところに持《も》って来《き》ておくれ。」
と、附《つ》け足《た》したものです。
そこでみんなはくつろいで、気《き》の向《む》いた様《よう》にふるまいました。けれども、あの一|番《ばん》おしまいに殻《から》から出《で》た、そしてぶきりょうな顔付《かおつ》きの子家鴨《こあひる》は、他《ほか》の家鴨《あひる》やら、その他《た》そこに飼《か》われている鳥達《とりたち》みんなからまで、噛《か》みつかれたり、突《つ》きのめされたり、いろいろからかわれたのでした。そしてこんな有様《ありさま》はそれから毎日《まいにち》続《つづ》いたばかりでなく、日《ひ》に増《ま》しそれがひどくなるのでした。兄弟《きょうだい》までこの哀《あわ》れな子家鴨《こあひる》に無慈悲《むじひ》に辛《つら》く当《あた》って、
「ほんとに見《み》っともない奴《やつ》、猫《ねこ》にでもとっ捕《つかま》った方《ほう》がいいや。」
などと、いつも悪体《あくたい》をつくのです。母親《ははおや》さえ、しまいには、ああこんな子《こ》なら生《うま》れない方《ほう》がよっぽど幸《しあわせ》だったと思《おも》う様《よう》になりました。仲間《なかま》の家鴨《あひる》からは突《つ》かれ、鶏《ひよ》っ子《こ》からは羽《はね》でぶたれ、裏庭《うらにわ》の鳥達《とりたち》に食物《たべもの》を持《も》って来《く》る娘《むすめ》からは足《あし》で蹴《け》られるのです。
堪《たま》りかねてその子家鴨《こあひる》は自分《じぶん》の棲家《すみか》をとび出《だ》してしまいました。その途中《とちゅう》、柵《さく》を越《こ》える時《とき》、垣《かき》の内《うち》にいた小鳥《ことり》がびっくりして飛《と》び立《た》ったものですから、
「ああみんなは僕《ぼく》の顔《かお》があんまり変《へん》なもんだから、それで僕《ぼく》を怖《こわ》がったんだな。」
と、思《おも》いました。それで彼《かれ》は目《め》を瞑《つぶ》って、なおも遠《とお》く飛《と》んで行《い》きますと、そのうち広《ひろ》い広《ひろ》い沢地《た
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