今夜は立腹のあまり、中途までぐらいは上って来ないとも限りませんでした。それに、ベッキイを小突きまわしながら、あとから上ってくるような気配さえしました。
「嘘つき! 料理番の話だと、なくなったのは今日ばかりじゃアないそうじゃアないか。」
「でも、私じゃアございません。私、お腹はすいてたけど、そんな、そんな――」
「監獄に入れてやってもいいくらいだ。盗んだり、つまんだり。肉饅頭《ミイト・パイ》を半分も食べちゃったんだね。」
「私じゃアないんですってば! 食べるくらいなら、皆食べちまうわ。――でも私、指一つさわりゃアしなかったんだわ。」
そのパイは、ミンチン先生が夜おそく食べようと思って、とっておいたものでした。先生は息を切らして階段を上りながら、ぴしぴしベッキイを打っているようでした。
「嘘なんかつくな。たった今、部屋に入ってしまえ。」
戸がしまって、ベッキイが寝台に身を投げる音がしました。彼女は泣きじゃくりながらいいました。
「食べる気なら、二つぐらい食べちまうわ。一口だって食べやしなかったのに。料理番が、あの巡査に食べさしたんだわ。」
セエラは真暗な室内に立ったまま、歯をくいしば
前へ
次へ
全250ページ中183ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング