かかえると、エミリイはほんとうに利口そうな眼つきをしていました。大きな人形でしたが、大きすぎて持ち運びが出来ぬというほどではありませんでした。癖のない金色の巻毛が、マントのようにふさふさと垂れ、眼は深い、澄みきった藍鼠色《あいねずみいろ》でした。そして、そのふちには、ほんものの睫《まつげ》が生えていました。
 二人は、エミリイを子供衣裳屋《こどもいしょうや》に伴れて行き、セエラの通りに立派な衣裳を整えました。
「私は、誰がみてもこの子はいいお母様を持っていると思うようにしておきたいの。私はこの子のお友達で、そしてお母さんなのよ。」
 父はセエラと一緒にこの買物をよろこびました。が、この可愛い、愛嬌のある娘から、じきに別れなければならないのを想い出すと、たまらなく悲しくなりました。
 クルウ大尉は、真夜中に自分の床を出て、立ってセエラを見下ろしていました。セエラはエミリイを抱いて眠っていました。乱れた黒い髪が枕の上で、エミリイの金髪と縺《もつ》れ合っていました。二人ともレエスの襞《ひだ》をとった寝衣《ねまき》を着、二人とも長い、先のそり上った睫を頬《ほお》の上に落していました。エミリイは
前へ 次へ
全250ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング