備へてゐるから、追従負《つゐしようまけ》などはしないと信じていゝと思ふ。たゞ、玄人と指す場合、最初の一回は、玄人は自然に指してゐるのである。だから、最初の一回は勝ち易い。しかし、一度負けると玄人は、今度は負けまいと指すであらう。だから、玄人に二度続けて勝つた場合は、たしかに勝つたと信じていゝのであらう。二度つゞけて負けると、三度目には、玄人はきつと定跡を避けて力将棋を挑んで来るが、この三度目を負すと圧倒的に勝つたと云つてよいだらう。
初段に二枚以上の連中の人達では、一枚位違つてゐても、平手で相当指せるものである。四五番の中では、下手の方が一二番は勝てるものである。だから、一枚位違つてゐても、いつも平手を指してゐる人があるが、しかしそれでは上手の方はつまらないと思ふ。少しでも力が違つてゐる場合は、ちやんと駒を引いて指すべきだ。でないと上手の方がつまらないと思ふ。
玄人と素人との棋力を格段に違つてゐるやうに云ふ人がある。素人の初段は、玄人の初段とは二三段違ふと云ふのである。しかし、自分は思ふに玄人と素人との力の違ひは、たゞ気持の問題で、一方は将棋が生活のよすがであり、その勝敗が生計に関
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