し、立身に関すると考へるからだと思ふ。素人だつて、玄人同然の必死の気持で研究し対局したならば、さう見劣りするものではないと思ふ。
将棋を指すときは、怒つてはならない、ひるんではいけない、あせつてはいけない。あんまり勝たんとしてはいけない。自分の棋力だけのものは、必ず現すと云ふ覚悟で、悠々として盤面に向ふべきである。そして、たとひ悪手があつても狼狽してはいけない。どんなに悪くてもなるべく、敵に手数をかけさすべく奮闘すべきである。そのうちには、どんな敗局にも勝機が勃々《ぼつ/\》と動いて来ることがあるのである。初心者の中には飛車を取られると、「えつやつちまへ!」と云つて、角までやつてしまふやうなことを絶えずやつてゐるやうな人がある。
「将棋は、先《せん》を争ふものである」と云ふことを悟つて上手《じやうず》になつた人がゐるが、先手先手と指すことは常に大切なことである。それから、お手伝ひをしないこと、例へば敵が歩を打つて来ると、これを義理のやうに払つて、敵銀を進ませてやると云ふやうなことを初心の中《うち》は絶えずやつてゐるが、このお手伝ひをやらなくなれば、将棋は可なり進歩してゐると云つてもよ
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