といった。男は、この生活にも相手の女にも心から魅《み》せられていたから、もちろんです、生かそうとも殺そうともお心次第です、と答えた。すると、女は大変よろこんで、男をいざと言って、奥《おく》の一間へ連れて行った。そして、この男の髪《かみ》へ縄《なわ》をつけて、はたもの(罪人を笞打《むちう》つためにしばりつける刑具《けいぐ》である)に男を後向きにしばりつけた。両足もしっかり、むすびつけた。そして、女は男のように烏帽子《えぼし》を被《かぶ》り水干袴をつけると笞をもってはだかにした男の背を八十ばかり打った。そしてから、気持はどうですといって訊《き》いた。男は、何のこれしきのことと答えると女は満足して、いろいろといたわった。よい食物などもたくさんたべさせた。三日ほどで、笞のあとが、いえると、また同じ室につれて行って、はたものにしばりつけると、今度は、前よりもしたたかに八十打った。血走り肉乱れるほど、はげしい打ち方だった。

       五

 情容赦《なさけようしゃ》もなく打ちつづけてから(我慢《がまん》が出来ますか)と、いって訊いた。男は、顔色も替《か》えず(出来ますとも)と、答えると、今度
前へ 次へ
全13ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング