を上げ掃除《そうじ》などをして、かゆと強飯《こわめし》とを主人の女とその男に給仕した。こんな風にして、二、三日暮していた。男は、夢《ゆめ》み心地に女との愛欲生活をたのしんでいた。すると、女が何か外出する用事はないかと訊《き》いたので、ちょっとあると答えると、しばらくして一頭の駿馬《しゅんめ》に、水干装束《すいかんしょうぞく》をした下人が二、三人付いてやって来た。
 すると女は、男をその家の納戸《なんど》のような部屋へ案内した。外出用の衣裳《いしょう》が、いく通りも揃《そろ》えてある。どれでも、気に入ったのを着ろという。男は、思いのままに装束して、その馬に乗り、下人を連れて外出した。その馬もいい馬だったが、下人達も後生大事と仕えてくれるのであった。帰ってくると、馬も下人も女主人に何ともいわれないのに、いつの間にか居なくなった。このように、豊かに何の不自由もなく、二十日ばかり暮していた。すると、女がある日、不思議な御縁《ごえん》でいっしょに暮しましたが、あなたもお気に召《め》したから、こんなに長くいらっしゃるのでしょう。そうすれば、私のいうことは、生死にかかわらず聴《き》いて下さるでしょう
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