へ姿をかくすなど、奇怪至極《きっかいしごく》であると思ったが、深夜であるし、処置の方法がない。それで、仕方なく引き上げたが、あくる朝起き出ると、すぐに四条大宮へ行って官邸の西の門あたりを調べて見た。すると、塀《へい》にかすかではあるが、血の痕《あと》がついている。昨夜の男が官邸にはいったに違いないと思って、家へ帰ると主人に詳《くわ》しく報告した。すると、主人は検非違使の長官とは割合|懇意《こんい》であったので、すぐ出向いてその事を長官に話した。長官は驚《おどろ》いて家の中を捜索《そうさく》した。すると、例の血痕《けっこん》が北の対《たい》(離《はな》れ座敷《ざしき》)の車宿(車を入れておく建物)にこぼれているのが分った。北の対と云えば、官邸に使われている女中達の宿である。きくと、女中の誰《だれ》かが強盗をかくしているに相違《そうい》ないと云うので、女中を一々呼び出した。すると、その中に大納言|殿《どの》と云われる上席の女中がいたが、それが風邪気味《かぜぎみ》だと云って、出て来ない。それを、たとい人に負われてもよいから出て来いと云ったので、仕方なく出て来た。呼び出しておいてから、その局《
前へ
次へ
全13ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング