、首領らしい男はなるほどと云うように、うなずいていた。
 そこで、解散したが、男が家に帰って見ると、湯などわかしてあり、食物も用意してあって、歓待してくれた。こんな生活をしている内に、男はだんだん女がいとしく別れがたくなって、自分が悪事を働いているということさえ、気にならなくなった。そして、五度十度と仕事に加わった。刀を持って内へ押入《おしい》る組になったり、弓を持って外で立番する組にもなった。どちらの組に加っても、相当な働きをした。すると、女がある日、一つのかぎをくれて、烏丸《からすま》より東、六角より北のこういう所に行くと、蔵が五つある。その蔵の南から二番目のを、このかぎで開けなさい。いろいろ品物がはいっているから、その中で気に入ったものを運んでいらっしゃい。その近所には、かし車屋があるから、それを頼《たの》んだがよいと云った。云われる通りの蔵を見つけて開けて見ると、ほしいと思うものが、充満《じゅうまん》していた。それを運んで来て、平生使っていた。
 こんなにして、一年以上過ぎた頃である。その女がある日、いつになく心細気な顔をして涙《なみだ》ぐんでいる。どうしたかといって訊くと、(
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