あなたと本意なく別れるようになるかもしれない)と、云うのである。どうして、今そんな事を云うのかときくと(いや世の中と云うものはそうしたものである)と答えた。男は、ただ口先だけで云うことだとあまり気に止めていなかったが、それから数日して、例のように供人を連れ、馬に乗って外出した。外出先で一泊して、あくる日帰ろうとすると、いつの間にか馬も供人も居なくなっている。驚《おどろ》き怪《あや》しんで家に帰って見ると、その家は焼き払《はら》われて、三人の女は影《かげ》も形もない。六角の北の蔵の所へ行って見たが、その家もすっかりとりこわされていた。男は初めて女のいったことが思い合わされた。その後、男は結局習い覚えた強盗を働いて世を送っている内、捕《とら》えられて、この話を白状したのである。その男がつけ足していうには、あの小男の首領らしい男は結局自分が連れ添《そ》っていたあの女であったらしい。同棲《どうせい》していた当時は、お互《たがい》にその事には、一言もふれなかったが、後で考え合わせると、そうらしいというのである。
底本:「悪いやつの物語〈ちくま文学の森8〉」筑摩書房
1988(昭和63
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