十八日の晨朝《しののめ》に信長の本陣へ不意に切掛り、急に是《これ》を攻めれば敵は思ひよらずして周章すべし、味方は十分の勝利を得べきなりと申しけるに、浅井半助とて武勇|人《ひと》に許されしものながら、先年久政の勘当をうけて小谷を追出され、濃州に立越え稲葉伊予守に所縁あるを以て暫時かくまはれて居たりしかば、信長の軍立《いくさだて》を能々《よくよく》見知りてありけるが、今度《このたび》織田徳川矛盾に及ぶと、浅井を見続《みつ》がずば弥《いよいよ》不忠不義の名を蒙《こうむ》るべしとおもひ、稲葉には暇乞もせず、ひそかに小谷へ帰り、赤尾美作守、中島日向守に就て勘当免許あらんことを願ひしに、久政きかず。殊に稲葉が家にかくまはれしものなれば、いよ/\疑心なきにあらずとて用ひられざりしかば、両人様々に証拠をとりて詫言《わびごと》申せしゆゑ、久政も黙止《もだ》しがたく、然らばとて免許ありて差置かれけるに、此間《このあいだ》信長陣替の時|丁野《ちょうの》若狭守と共に討つて出で合戦し、織田勢あまた討捕りしかども却て、丁野も半助も久政のにくみを受けながら、遠藤|喜右衛門《きえもん》が能く取りなしけるに依《よっ》て
前へ 次へ
全31ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング