二也」と放言して、官軍に加ったことが『太平記』に見える。其の真疑はとにかく、先ず普通の地方武士など大体こんな調子であろう。伝うる所によれば、諸国から恩賞を請うて入洛し、万里小路《までのこうじ》坊門の恩賞局に殺到する武士の数は、引きも切らなかったと言う。だから充分なる恩賞に均霑《きんてん》し得ない場合、彼等の間に、不平不満の声の起きるのは当然である。
或日、塩谷《えんや》判官高貞が良馬竜馬を禁裡に献上したことがあった。天皇は之を御覧じて、異朝は知らず我が国に、かかる俊馬の在るを聞かぬ、其の吉凶|如何《いかに》と尋ねられた。側近の者皆|宝祚《ほうそ》長久の嘉瑞《かずい》なりと奉答したが、只万里小路藤房は、政道正しからざるに依り、房星の精、化して竜馬となり人心を動揺せしめるのだと云って、時弊を痛論した。即ち元弘の乱に官軍に加った武士は、元来勲功の賞に与《あずか》らん為のみであるから、乱後には忽ち幾千万の人々が恩賞を競望して居る。然るに公家《くげ》一味の者の外は、空しく恩賞の不公正を恨み、本国に帰って行く。かかる際にも不拘《かかわらず》、大内裏の造営は企劃され、諸国の地頭に二十分の一の得分を
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