ると、かいて置いた。そして、秀吉に訊問せられた時、「天が下成る」であったのを自分に反感を持つものが、知る[#「知る」に傍点]に訂正したのであると云った。知るとあるのを消して再び知るとかいた所に紹巴の頭のよさがある。
とにかく光秀の肚《はら》は、反逆五分、大志五分であったのであろう。天下を取ることも、必ずしも空想ではなかった。勝家は北国に、秀吉は中国に、滝川は関東にめいめい敵を控えているのだし、秀吉なども光秀の眼からは、現在我々の考えているような英雄に見えるわけはなく、自分と同輩もしくは以下に見えたであろう。それに、毛利と云う大敵を前に控えて、簡単に攻め上って来るとは思えなかったのだろう。実際柴田などは、グズグズしてなかなかやって来なかった。
秀吉や柴田が、グズグズしている裡に、畿内を経営して、根拠を築き、毛利と誼《よしみ》を通じて秀吉を挾撃して、之を倒せば天下の勢い我に帰すべしと、光秀は思ったに相違なく、そう思ったことをあまり無理だと云えないところもある。その証拠に、堺にいた家康など泡を喰って本国へ逃げ帰っている。これは、光秀の成功が可能に見えた証拠である。
その上、光秀は女婿の
前へ
次へ
全17ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング