衛門は土につくほど頭を下げた。さっきから再び集っていた子供は一斉にわらった。
「さあ、はよう失せおれ」と二、三人に突き飛ばされて、右衛門はよろよろと立ち上った。美しい顔を泣き腫《はら》しながら、ただ褌《ふんどし》だけを身に纏うてとぼとぼと夕日の下を西の方へ歩んで行った。百姓どもは皆この臆病者をあざわらった。しかし裸で歩くことがことさらに軽蔑の一原因となったと思ってはいけない。この頃の少年は、夏はたいてい褌一つで歩いたものであるから。
高天神《たかてんじん》の城へ右衛門の着いたのは、二日目の晩であった。城将の天野刑部《あまのぎょうぶ》が三年前に今川氏に人質になっていた時に右衛門は数々の好意を与えてやった。ある時刑部は、右衛門の前に両手をついてこの御恩は生涯忘れぬというた。右衛門はその言葉を信じて、はるばる高天神の城を頼って来たのである。彼が城へ着いた時は無論裸ではなかった。彼は誰に合力を受けたのか、粗末であるが着物を着ていた。刑部はこの珍客の来たのを見て、いくらか興味を起したらしい。それに氏元の生死はなお不明である。もし北条と武田とが氏元に合力することがあったならば、駿河一国を取り返
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