三浦右衛門の最後
菊池寛
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)酷《ひど》い
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三|度《たび》問《とい》を重ねた
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ほこり[#「ほこり」に傍点]
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駿河の府中から遠からぬ田舎である。天正の末年で酷《ひど》い盛夏の一日であった。もう十日も前から同じような日ばかりが続いていた。その炎天の下を、ここから四、五町ばかり彼方にある街道を朝から、織田勢が幾人も幾人も続いて通る。みんな盛んに汗をかいている。その汗にほこり[#「ほこり」に傍点]が付いて黒い顔がさらに黒ずんで見える。しかしこう物騒な世の中ではあるが、田の中にいて雑草を抜いたり、水車を踏んだりしている百姓は割合に落ち着いている。一つは見渡す限り略奪にあいそうな農作物は一つもないからである。どんなに織田勢が意地が汚くっても、まだ花が咲いているばかりの稲を刈り取りはしまいという安心があるのと、二つには戦《いくさ》さわぎに馴れきって、英国の商人たちのように business as usual と悟りすま
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