すのはなんでもない。その場合には、氏元の寵臣《ちょうしん》を助けた自分の位置はすこぶる有利になるだろうと考えた。右衛門も普通の人間がつくぐらいの嘘はつくことができた。彼は乱軍の中で主人と別れ別れになった不幸をはじめとし、世を忍ぶために物具《もののぐ》を自分で捨てた話などを、言葉巧みにした。刑部はこれを疑う材料もなかったので、一室に請《しょう》じて、万一の場合、後で苦情をいわれぬくらいには歓待した。
 刑部は織田と今川との中間に位しているので、欧州戦争のギリシャのように、どっちへも付かずにうまくやっていたのである。三浦右衛門を養いながら彼は手を回して氏元の消息を探った。ところが氏元は織田勢に追い詰められて腹を切って死んだということがわかった。その知らせの挿話として、氏元の寵を一身に集めた三浦右衛門は、府中落城のその日に早くも主君を捨てて逐電《ちくでん》したということが添えられた。この知らせを聞いて刑部の考えついた政策はすこぶる常識的であった。右衛門を首にして織田氏に差し出して自分の二心のないことを知らせることであった。右衛門を殺すには主君に対する忘恩の罰を責めてそれを口実にすればいいと思
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