かった。が、彼の道心は勝った。彼は一瞬の間、老僧を見つめると、踵《きびす》を翻して自分の薪束の所へ帰った。
でも、彼の心は容易には収まらなかった。彼は、薪束の中の太い棒を見ていると、それを真向に振り翳《かざ》して、敵の坊主頭を叩いてやりたかった。まだ、一年と安居《あんご》をしていない彼の道心は、ともすれば崩れかけた。彼は、足下の薪束を茫然と見つめながら迷った。迷った末に、彼は辛うじて自分の妄執に打ち勝った。
が、自分の心が不安でならなかった。一旦は思い捨てても、どういう機会に、再び妄念に囚われるかもしれない。どんなはずみで相手を打ち殺すかもしれない。彼は、自分の道心の勝利を、何かに誓っておきたかった。二度と再び、未練な妄執に囚われないために、何かに誓っておきたかった。
それは、敵の老僧に打ち明けておくより、いいことはないと考えついた。在俗の折の妄執として、話しておこう。そして、現在の自分が、それに打ち勝ち得たことを相手に話しておこう。そして、敵の手をとって、快く笑おう。敵にそれと明かした以上、どんなに妄執の力が強くとも、束《つが》えた言葉を破ることはないだろう。彼はそう思うと、で
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