、さすがに何もいわなかった。
小泉は、また静かに言葉を継いだ。
「御異議ないとあらば、方法手段じゃ。ご存じの通り、成田頼母は、竹内流小具足の名人じゃ。小太刀を取っての室内の働きは家中無双と思わねばならぬ。従って、我々の中から、討手に向う人々は、腕に覚えの方々にお願いせねばならぬ」
「左様!」吉川隼人が返事をした。「しかし、多人数押しかけて御城下を騒がすことは、外敵を控えての今、慎まねばならぬ。討手はまず三人でよかろうと思う」
一座は緊張した。が、皆の心にすぐ天野新一郎の名が浮んだ。彼は、藩の指南番、小野派一刀流熊野三斎の高弟であるからだ。
「腕前は未熟であるが、拙者はぜひお加え下されい」吉川隼人がいった。
未熟であるというのは、彼自身の謙遜で、一党の中では使い手である。しかし、新一郎には到底及ばぬ。
「拙者も、是非!」幸田八五郎がいった。
彼も相当な剣客であった。しかし、天野新一郎とは、問題にならぬ。
衆目の見る所、自分よりは腕に相違のある連中に名乗り出でられて、新一郎も黙っているわけにはいかぬ。
「拙者も、ぜひお加え下されい」と、いわずにはおられなかった。
小泉も山田も、
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