とう》にかえすは、非常手段に出るほかは、ござらぬ。明日の出兵を差し止める道は、今夜中に成田頼母を倒すよりほか、道はないと存ずるが、方々《かたがた》の御意見は?」と、さすがに蒼白な顔をして、一座を見回した。
「ごもっとも、大賛成!」吉川隼人が、一番にいった。
 主人の小泉は、山田とはすでに相談ができていたように、静かに口を開いた。
「成田殿に、個人として、我々はなんの恨みもない。頑固ではあるが、主家に対しては忠義一途の人じゃ。が、一藩の名分を正し、順逆を誤らしめないためには、止むを得ない犠牲だと思う。成田殿一人を倒せば、後には腹のあるやつは少ない。明日の出陣も、総指揮の成田殿が亡くなれば、躊躇逡巡して沙汰止みになるのは、目にみえるようだった。その間に、尊王の主旨を吹聴して、藩論を一変させることは、案外容易かと存ずる。慶応二年以来、我々同志が会合して、勤王の志を語り合ったのも、こういう時の御奉公をするためだと思う。成田殿を倒すことは、天朝のおためにもなり、主家を救うことにもなる。各々方も、御異存はないと思う」
「異議なし」
「異議なし」
「同感」
 銘々、口々に叫んだ。
 天野新一郎だけは
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