》、甚シキニ至リテハ、其事ノ故誤ヲ問ハズ、其ノ理ノ当否ヲ顧ミズ、復讐ノ名義ヲ挟ミ、濫リニ相構害スルノ弊往往有[#レ]之、甚ダ以テ相不[#レ]済事ニ候。依[#レ]之復讐厳禁仰出サレ侯。今後不幸至親ヲ害セラルル者有[#レ]之ニ於テハ、事実ヲ詳《ツマビラカ》ニシ、速ニ其筋へ訴へ出ヅ可ク侯。若シ其儀無ク、旧習ニ泥《ナヅ》ミ擅殺スルニ於テハ相当ノ罪科ニ処ス可ク候条、心得違ヒ之レ無キ様致スベキ事。
[#ここで字下げ終わり]
新一郎は、その布告の写を、役所から携え帰って、万之助に見せた。
万之助は、それを見ると、男泣きに泣いた。
万之助が泣き止むのを待って、新一郎は静かにいった。
「かような御布告が出た以上、親の敵を討っても、謀殺であることに変りはない。軽くても無期徒刑、重ければ斬罪じゃ」
が、万之助は、毅然としていった。
「復讐の志を立ててからは、一命は亡きものと心得ております。曽我の五郎十郎も、復讐と同時に命を捨てました。兄弟としては、必ず本望であったでござりましょう。たとい朝廷から御禁令があっても、私はやります。きっとやります。命が惜しいのは敵を討つまでで、敵を討ってしまえば、命など
前へ
次へ
全37ページ中35ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング