か」山田が、新一郎にささやいた。
「ある。中庭の方へついた小窓」そう答えた刹那に、新一郎は後悔した。いくら、大義名分のためとはいえ、そこまではいわなくたってもいいのではなかったかと、思った。
六人は、庭を回って、中庭に入った。なるほど、直径《さしわたし》二尺ぐらいの低い窓が、壁についている。格子形に組んである竹も細い。小泉は、小刀を抜くと、一本一本音を立てぬように、切り始めた。山田も手を貸した。
「幸田殿、貴殿はいちばん身体が小さい。ここから、潜って入って、雨戸をお開け下されい」
「よし、来た」幸田は、大小を小泉に渡すと、無腰になって、潜りぬけた。
そして、中から大小を受け取りながら、
「天野氏、桟はどこだ。ここの端か、向うの端か」ときいた。
「たしか向うの端」
幸田は、廊下を忍んで歩いて行った。
外側の五人も、忍び足で雨戸の向うの端へ歩いた。
桟を上げる音が、かすかに響いた。雨戸が、低い音を立てて開いた。皆、刀を抜いた。小泉が、「天野氏、どうぞお先に。みんなみんな静かに」と、いった。先手の連中が先へ出た。
そこの廊下に添うた部屋は、お八重殿の部屋である。灯がかすかにともっ
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