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(このとき、「一揆じゃ! 一揆じゃ! 一揆が来たぞ!」という、叫びが遠く近く聞えてくる)
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おきん ああとうとう、来たんじゃのう。恐ろしいことになったのう。
甚三 御城下を、夜討ちにするじゃのう。
おきん まさか、こちとらに、仇はしやすまいのう。
甚吉 何、そなな心配があるもんか。一揆はこちとらの味方じゃないか。
おきん われら、みんな隠れとれ! 加担人させられたら、後が難儀じゃけに。
甚吉 まだ、ええ。まだ、ええ。こっちへ来るのには間がある。
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(このとき、村人の一人、あわただしく駆けてくる)
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甚吉 おおわれや、藤作じゃねえか。
藤作 おお。この村も、加担じゃぞ。ええか。一軒で一人ずつ、人数を出すんじゃぞ。ええか。炬火《たいまつ》と竹槍とを用意しとげ。ええか。後から、一揆の統領が回って来るけにな。
甚吉 (蒼白になりながら)合点じゃ。
藤作 加担の村が、二百十二カ村になったぞ。夜更けにお城下へ押し寄せて、御家老たちの家を叩き壊すいうとるぞ。はよう、用意せい。ええか。わかったか。
甚吉 わかった。わかった。
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(藤作、駆け去る)
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おきん (狼狽しながら)どうしよう。どうしよう。
甚吉 仕方がねえ。わし行くぞ。
おきん 阿呆いうな。後嗣《あとつぎ》のお前に万一のことがあったらどうするんじゃ。われは行くんじゃねえ。
甚三 兄貴は、家にいるがええ。わしが行くだ。わしが。
おきん われも行くでねえ。加担して、後で打首にでもなったら、どうするだ。
甚三 そなな心配がいるもんけ。何万という人数じゃもの。ただついて行っただけで打首になんか、なって堪るけい。
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(急に炬火の火が近づいてくる。一揆らが近づいてきた物音がきこえる。寺の鐘、段々と鳴りつづける)
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おきん こちらへ来るだ。こちらへ来るだ。われら、みんな隠れとれ
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