つ行こうか。
おきん 飯食うてからにせい。評定が、長びくかも知れんけに。
甚吉 ああ、ど不具めと、取り組み合うて、えらいことお腹を空かせたぞ。
おきん (台所へ入り、鍋の蓋を開けて見て)あの阿呆め! 三切れも、食いやがった。われらに、一切れずつやろう思っていたら、当らんようになったぞ。
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(兄弟三人、台所に腰をかけ、粟飯を茶碗に盛りながら、大根を鍋よりはさみ出しながら食う)
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甚三 一揆も、やっているときは、景気がええがのう。後でまた、磔《はりつけ》や打首が二、三十人はあるべい。
おきん 触らぬ神に、崇りなしじゃ。なるべくなら、誰も出んで済むとええがのう。
甚作 そうもなるまい。村で加担するとなると、家では若い者が揃っとるけにのう、一人二人は出ねばなるまい。
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(この前より、周囲がほの明るく騒がしくなる。遠方が、火事でもあるように明るくなる。雑音がだんだん高くなる。遠い寺の鐘が鳴り始める)
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甚作 (駆け出しながら)なんやろう。なんやろう。火事かしら。向うが真っ赤じゃ。
甚吉 ええ、なんじゃと。(出てくる)ほほう。赤いな。どうしたんじゃろう。どこぞで火事を出したのか知らん。
おきん ええ、火事じゃと。(出てくる)
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(甚三も出てくる。親子四人とも、遠方を見て、不安に襲われる。寺の鐘激しく鳴る。牛小屋の戸がガタガタ動く)
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甚兵衛の声 開けてくれ! 開けてくれ!
甚吉 阿呆め! お前は、そこですっこんでおれば、ええじゃ。
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(村中が、ますます明るくなる。人声が嵐のように高まってくる。犬がけたたましく吠える。寺の鐘が殷々《いんいん》と鳴る。甚作駆け出す。やがて帰ってくる)
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甚作 (蒼くなって、帰ってくる)えらいこっちゃ! えらいこっちゃ。街道筋は一面の炬火《たいまつ》じゃ。
甚吉 え、なんじゃと。
[#こ
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