っと発展すると思う)
と、言って僕は芥川の説に承服しなかったが、芥川の真意は僕が創作をちっとも発表しないのを心配してくれたのだろうと思った。
僕のもっとも、遺憾に思うことは、芥川の死ぬ前に、一カ月以上彼と会っていないことである。この前も「文藝春秋座談会」の席上で二度会ったが、二度とも他に人がありしみじみした話はしなかった。その上、「小学生全集」があんなにゴタゴタを起し、芥川にはまったく気の毒で芥川と直面することが、少しきまり悪かったので、座談会が了った後も、僕は出席者を同車して送る必要もあり、芥川と残って話す機会を作ろうとしなかった。ただ万世橋の瓢亭で、座談会があったとき、私は自動車に乗ろうとしたとき、彼はチラリと僕の方を見たが、その眼には異様な光があった。ああ、芥川は僕と話したいのだなと思ったが、もう車がうごき出していたので、そのままになってしまった。芥川は、そんなときあらわに希望を言う男ではないのだが、その時の眼付きは僕ともっと残って話したい渇望があったように、思われる。僕はその眼付きが気になったが、前にも言った通り芥川に顔を会わすのが、きまり悪いので、その当時用事はたいてい人
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