によって身を梟木《きょうぼく》に晒され、現在の報いを自ら受くるのも一法じゃが、それでは未来永劫、焦熱地獄の苦艱《くげん》を受けておらねばならぬぞよ。それよりも、仏道に帰依《きえ》し、衆生済度《しゅじょうさいど》のために、身命を捨てて人々を救うと共に、汝自身を救うのが肝心じゃ」と、教化した。
市九郎は、上人の言葉をきいて、またさらに懺悔の火に心を爛《ただ》らせて、当座に出家の志を定めた。彼は、上人の手によって得度《とくど》して、了海《りょうかい》と法名を呼ばれ、ひたすら仏道修行に肝胆を砕いたが、道心勇猛のために、わずか半年に足らぬ修行に、行業《ぎょうごう》は氷霜《ひょうそう》よりも皓《きよ》く、朝には三密の行法を凝らし、夕には秘密念仏の安座を離れず、二|行彬々《ぎょうひんぴん》として豁然智度《かつぜんちど》の心萌し、天晴れの知識となりすました。彼は自分の道心が定まって、もう動かないのを自覚すると、師の坊の許しを得て、諸人救済の大願を起し、諸国雲水の旅に出たのであった。
美濃の国を後にして、まず京洛の地を志した。彼は、幾人もの人を殺しながら、たとい僧形の姿なりとも、自分が生き永らえてい
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