んこともないでな。親兄弟の恥になるでな、こなに高い所に上って、おらんでいるとなあ。
藤作 けど弟さんの末《すえ》さんが町の学校でようできるんやけに、旦那もあきらめがつくというもんやな。
義助 末次郎《すえじろう》が人並にできるんで、わしも辛抱しとんや。二人とも気違いであったら生きとる甲斐がないがな。
藤作 実はな、旦那さん。よく効く巫女《みこ》さんが昨日から島へ来とるんでな。若旦那も一ぺん御祈祷《ごきとう》してもろうたら、どうやろうと思うて来ましたんやがな。
義助 そうけ。けど御祈祷しても今までなんべん受けたかわからんけどもな、ちょっとも効かんでな。
藤作 今度ござらっしゃったのは金比羅《こんぴら》さんの巫女さんで、あらたかなもんやってな。神さまが乗りうつるんやていうから、山伏《やまぶし》の祈祷とは違うてな、試してみたらどんなもんですやろ。
義助 そうやなあ。御礼はどのくらい要るもんやろ。
藤作 治らな要らんいうておりますでなあ。治ったら応分に出せいうとります。
義助 末次郎は、御祈祷やこし効くもんかいうとるけど、損にならんことやけに頼んでみてもええがなあ。
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(この時、吉治、梯子を持って入ってくる。竹垣の内へはいる)
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藤作 そんなら私は、金吉のところにいる巫女さんを呼んできますけにな。若旦那を降しといておくれやす。
義助 お苦労様やなあ。そんならええように頼んまっせ。
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(藤作を見送った後)さあ義《よし》! おとなしゅう降りるんだぜ。
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吉治 (屋根へ上ってしまって)さあ若旦那、私と一緒に降りましょう。こなな所にいると晩には大熱が出るからな。
義太郎 (外道《げどう》が近寄るのを恐れる仏徒のように)嫌やあ。天狗様が皆わしにおいでおいでをしとる。お前やこしの来る所じゃないぞ、なんと思うとるんや。
吉治 阿呆なこといわんと、さあ降りまあせ。
義太郎 わしにちょっとでも触ると天狗さまに引き裂かれるぞ。
吉治 (義太郎に急に迫って、その肩口を捕えながら下の方へ引下ろす。義太郎は捕えられてからはほとんどなんの抵抗もしない)さあ荒ばれると怪我をなさりまっせ。
義助 気付けて降すんやぜ。
吉治
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