やはりなんでもないことなんでしょう。
しばらくすると、人波にもまれながら、腰の曲った、よぼよぼの跛《ちんば》のおじいさんが、やって来ました。別にお祭りに出かけるらしくもなく、みすぼらしいぼろを着て、埃の中をだまりこんでやって来ました。このおじいさんが、パトラッシュをみつけるとふしぎそうに立ち止り、草を分けてそばへ寄り、親切な目つきで、しげしげと犬のからだをしらべてみるのでした。
おじいさんのそばには、三才ばかりの、バラのような頬っぺたの、髪の房々《ふさふさ》した瞳の黒い子供がくっついていました。草は、その子の胸までもあるのでした。子供はおじいさんにつかまり、これは大へんだ、と言わんばかりに目をまるくして、可哀想な犬をじっとみつめていました。こうしてふたりははじめて会ったのでした。――子供のネルロと、大犬のパトラッシュとが。――
さて、ジェハンじいさんは、いろいろに骨を折って、ようやく犬のからだを、じき近くの、自分の小屋へ運びこみ、息のたえたこの犬を、心をこめて介抱してやりました。しかし、パトラッシュの倒れたのは、暑さと饑渇とつかれで、一時目がくらんだためですから、日かげへしずかに
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