て、その金髪が頭のうしろでおどってばかりいました。主人のコゼツは、胸が一ぱいになって、涙ぐんだ眼で娘に笑いかけながら、どうしたら娘のなつかしがる友達と仲なおりができるかとかんがえています。また、おかみさんはやさしい、満足そうなかおつきで、静かに糸車のそばにすわりました。置時計は時鳥の啼き声そっくりに時を告げました。その中でパトラッシュは、第一のお客さまとしていろいろ親切な言葉をかけられても、やはり頑張って動きません。ネルロがいなくては、どんなにたのしみも御馳走もパトラッシュをよろこばすことはできないのです。
 やがて、大きな食卓の上に、さまざまな御馳走が並べられ、お客さんたちは席につきました。部屋の中にはよろこびの声が満ちて、キリスト降誕の仮装をした大ぜいの子供が、それぞれ心をこめた贈物《おくりもの》をアロアに贈った、その時でした。今まですきをねらっていたパトラッシュは新しく来たお客が思わず扉《ドア》の掛金をはずしたとたん、風のようにぬけ出しました。パトラッシュはその疲れ切った足がつづく限り、暗い夜の雪みちを走りに走って行きました。ただひたむきにネルロの跡を追うばかりです。もしこれが人
前へ 次へ
全71ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
菊池 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング