がかたく閉じられてあるのをながめます。少年はさっさと通りすぎて行くが、その心の中では辛いのでした。
 アロアは窓の中で、編ものをしている手に、ほろっと涙を落す。主人のコゼツは、粉袋や粉挽機械の間をせっせと働きながら、いよいよ心をかたくなにして独言《ひとりごと》を言うのでした。
「こうして離しておく方がいいのじゃ。あの子供はどうせ乞食みたいで、その上画家になろうなどと、とんでもないばかげた夢を見ている。まかりまちがえば、こののちどんな不幸《ふしあわせ》が起って来るかもしれん、用心用心。」
 こうした間にも、れいの松の板ぎれは、粉挽屋の食堂のストーヴの上の置時計と十字架像の間に、大事そうにかざられてありました。ネルロはときどき、絵だけがこうも歓迎されて、それを描いた自分はなぜ除けものにされるのかしらと、かなしい、さびしいおもいを抱くのでしたが、ネルロは決して恨みがましいことは口に出しませんでした。ひとりずっと、心の中のかなしみに堪《こら》えているのが、彼の性でした。ジェハンじいさんは、よく彼に言い聞かせました。
「わし等は貧乏人じゃ、何でも神さまが下されたものをそのままお受けせねばならぬ。
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